第2回向山洋一教育賞に、全国から171本もの論文が寄せられました。
昨年に続き3桁を超える応募があり、選考委員といたしまして、驚きとともに感激しています。
応募論文のうち、1次選考を経た18本の論文の中から、「問題提起・有用性」「先見性」「向山洋一実践の継承」等を基準として受賞論文を決定しました。
今回、選ばれたのは、教育技術賞1本、最先端実践賞1本、学級経営・児童生徒指導賞2本、向山洋一実践・研究賞2本でした。
受賞者
向山洋一教育賞の
年度別受賞者を紹介しています。
年度別受賞者を紹介しています。
第2回(2023年度)
第1回(2022年度)
第2回(2023年度)全体講評
選考委員長 明石 要一
第2回(2023年度)受賞者
Ⅰ.教育技術賞
小原 嘉夫
生徒エージェンシー育成のための小学校社会科授業構成理論とその評価
創造的写真読解モデルを活用した第4学年「わたしたちの県(兵庫県)」を事例に
本研究は、「どのような写真読解プロセスが、OECDによるラーニング・コンパス(Learning Compass) 2030の生徒エージェンシー(Student Agency)育成に繋がるのか」を、小学校社会科を事例に明らかにしたものである。小学校社会科における写真読解の先行研究には、向山洋一の「雪小モデル」のように正確な読解や吟味的読解に迫る読み取りフレームワークは存在するものの、生徒エージェンシー育成には結び付きづらい。そこで本研究では、「正確な読解・吟味的読解・創造的読解の順で写真を読み取っていけば、生徒エージェンシー育成に繋ぐことができるであろう」という仮説を設定した。仮説検証のために、生徒エージェンシー育成に繋がる創造的写真読解モデルを活用した授業を開発し(研究I)、小学校4年生に対して実践した授業の効果検証を行った(研究II)。
審査講評
教育技術賞に選ばれた小原嘉夫氏の論文は、小学校社会科における写真読解プロセスの先行研究を整理したうえで、児童の変容を客観的な尺度を用いて探っている。これは、科学的な研究として高く評価できる。
また、「写真等を読解するモデル」については、向山洋一氏の「雪小モデル」(1990)の発表以降、この研究を発展させる試みは今までほとんど見られず、非常に価値がある。「エージェンシー育成」という大きな結論へ導いたことにより、研究の焦点が曖昧になった点は残るものの、向山洋一実践を継承・発展させていくための研究に、正面から取り組んでいる。
また、「写真等を読解するモデル」については、向山洋一氏の「雪小モデル」(1990)の発表以降、この研究を発展させる試みは今までほとんど見られず、非常に価値がある。「エージェンシー育成」という大きな結論へ導いたことにより、研究の焦点が曖昧になった点は残るものの、向山洋一実践を継承・発展させていくための研究に、正面から取り組んでいる。
Ⅱ.最先端実践賞
安江 愛
時間外勤務時間削減に向けて学校全体で取り組む働き方改革
教務主任の立場だからこそできること
本論文は、個々の教職員が取り組んだ働き方改革ではなく、管理職と相談しながら教務主任として提案し、学校全体で取り組んだ働き方改革による時間外勤務時間削減と教育環境向上に与える影響に焦点を当てた。令和4年度1学期における本校管理職の平均約120時間あった時間外勤務時間を、令和5年度1学期では平均約85時間にまで削減させた取り組みを検証した。具体的には会議に関すること、学校全体でやめたこと、時間短縮に関することと大きく3つに分けて取り組んだ。これらの取り組みにより、教職員の負担軽減と業務効率の向上が実現し、教育環境が改善された。本研究は、学校現場における働き方改革の成功事例を提供し、より健全な教育環境の構築に貢献するものである。
審査講評
最先端実践賞に選ばれた安江愛氏の論文は、教務主任の立場を生かした「働き方改革」に焦点を当てている。管理職の時間外勤務時間を「事前」と「事後」で比較することで、その改革効果が明示された。
実践事例についても、モニター設置や留守番電話、アプリ導入など、教務主任として「いかに学校へ働きかけたか」が具体的に述べられている。教育界において喫緊の課題である「働き方改革」へ取り組んだケーススタディ(事例研究)として、多くの学校の参考になるだろう。もっとも、実践事例の描写的な紹介に留まっており、研究としての深みをさらに期待したい。
実践事例についても、モニター設置や留守番電話、アプリ導入など、教務主任として「いかに学校へ働きかけたか」が具体的に述べられている。教育界において喫緊の課題である「働き方改革」へ取り組んだケーススタディ(事例研究)として、多くの学校の参考になるだろう。もっとも、実践事例の描写的な紹介に留まっており、研究としての深みをさらに期待したい。
Ⅲ.学級経営・児童生徒指導賞
五十嵐 勝義
知的障害児の日常生活スキルの形成と長期的維持
家庭でのお手伝いを学校で指導し、家庭で継続させるための方略
特別支援学校での指導により形成された日常生活スキルを、家庭に移行して長期にわたり維持することを目的とした。4名の対象児は小学部に在籍し、いずれも知的障害がある。指導したスキルは、洗濯、洗濯物干し、食器洗いである。保護者のニーズ、家庭の物理的環境、家庭独自のやり方を考慮して、課題分析を行い、指導を計画した。学校での指導は、視覚的手がかりを導入し、全課題提示法により行った。基準達成後、家庭へ移行した。4名の対象児とも、学校で指導した標的行動(洗濯、洗濯物干し、食器洗い等)を家庭でも実行することができ、1年間の長期にわたり維持したことが報告された。また、フォローアップ評価では、学校で指導した以上に、スキルが向上していた。
審査講評
学級経営・児童生徒指導賞に選ばれた五十嵐勝義氏の論文は、特別支援学校で実践された、日々の生活を送るうえで必要な「日常生活スキル」を定着させるという困難な課題について探究しており、多くの教室で参考になる内容である。
論文では、特別支援学校小学部に在籍する4名の知的障害児を対象として、日常生活スキルを長期間維持する効果的な指導法を検討しており、効果の実証も模範的であった。本賞の理念「どの子も大切にされなければならない」が最も表出された論文であり、今後、このような良質な論文を促す意味でも価値がある。一方、参考文献の多くが10年以上前のものであり、知的障害児に対する最新の知見も取り入れてほしかった。
論文では、特別支援学校小学部に在籍する4名の知的障害児を対象として、日常生活スキルを長期間維持する効果的な指導法を検討しており、効果の実証も模範的であった。本賞の理念「どの子も大切にされなければならない」が最も表出された論文であり、今後、このような良質な論文を促す意味でも価値がある。一方、参考文献の多くが10年以上前のものであり、知的障害児に対する最新の知見も取り入れてほしかった。
Ⅲ.学級経営・児童生徒指導賞
勇 和代
「1年生でマスターさせる平仮名指導」の研究
過去5年間の読み書き調査の結果を基に、平仮名指導の手立てを検証する
平仮名指導は、カリキュラム上1年生1学期に終えることになっている。短期間にどの子にも平仮名の読み書きをマスターさせるためには、指導の手立てが必要だ。読みに効果があったのは、「フラッシュカード」「音読」「暗唱」「読み聞かせ」である。書きでは、基本的に「ひらがなスキル」を使って『指書き』『なぞり書き』『写し書き』を行い『空書き』で点検する方法である。平仮名一文字を教える際の「ことばあつめ」や音韻を意識して「拍を手で打ち言葉を言う」ことは、児童の自発的な活動となった。また、調査でわかった間違えやすい文字は、注意して教えたり、子どもに間違い探し問題を出したりして活用した。これらの指導により、学習後にはどの子にも平仮名の読み書きの習得が見られた。また、特殊表記の文字や助詞の使い方は繰り返し学習する必要があり、1学期にとどまらず1年間かけて教えていく事が大切である。
審査講評
学級経営・児童生徒指導賞に選ばれた勇和代氏の論文は、児童の読み書き能力向上を目指して5年間にわたる実態調査を行い、誰でも再現性のある実践を提案している。向山洋一氏の指導方法等をふまえ、5年間410人のデータを丁寧に分析し、「読み」と「書き」における「平仮名ごとの難易度」が示されている。
また、勇氏の指導により、子どもたちの読み書き能力が向上していることも確認できる。日本の初等教育の良さを示す論文でもある。一方、参考文献は示されているが、それらの先行研究の「どの部分」を「どのように」本実践が乗り越えようとしたのかが明確ではない。「フラッシュカード」の効果検証も充実させてほしい。
また、勇氏の指導により、子どもたちの読み書き能力が向上していることも確認できる。日本の初等教育の良さを示す論文でもある。一方、参考文献は示されているが、それらの先行研究の「どの部分」を「どのように」本実践が乗り越えようとしたのかが明確ではない。「フラッシュカード」の効果検証も充実させてほしい。
Ⅳ.向山洋一実践・研究賞
田中 泰慈
フロー理論に基づく向山洋一の「熱中する授業」の考察
向山洋一は、「熱中する授業」の重要性を指摘している。本論文では、フロー理論を用いて、児童が「熱中する授業」の条件を分析し、モデル化した。次に、このモデルを用いて向山の「難問5問・1問選択システム」の授業システムと授業を受けた児童の感想文を分析した。最後に、この過程で明らかになったことをもとに再度、フロー理論に基づいて「熱中する授業」の条件モデルを再構築した。この研究によって、「児童が知覚する能力と必要とされる知識・技術レベルの一致」「学習課題の切実性」「方法の明確さ」「自分のペースで取り組める時間」「学習課題→フィードバック→修正のサイクル」「目的」が「熱中する授業」の条件であることがわかった。
審査講評
向山洋一実践・研究賞に選ばれた田中泰慈氏の論文は、向山洋一氏の実践において「子どもが熱中する」という現象に焦点を当てた、貴重な研究である。
向山氏の「熱中する授業」を、チクセントミハイのフロー理論をはじめとした心理学的知見に当てはめて分析しており、熱中する授業の「モデル化」を試みた点も有意義である。向山氏の実践には、「1問でも間違えたらバツ」「85点以上とったら減点」をはじめ、多様な「子どもが熱中する」授業があり、このような授業行為への追究がやや薄かった。今後の発展に期待したい。
向山氏の「熱中する授業」を、チクセントミハイのフロー理論をはじめとした心理学的知見に当てはめて分析しており、熱中する授業の「モデル化」を試みた点も有意義である。向山氏の実践には、「1問でも間違えたらバツ」「85点以上とったら減点」をはじめ、多様な「子どもが熱中する」授業があり、このような授業行為への追究がやや薄かった。今後の発展に期待したい。
Ⅳ.向山洋一実践・研究賞
平山 靖
いじめ発見・対応システムと運用に関する一考察
向山洋一いじめ発見・対応システムの校内実践者に対するインタビュー分析をもとに
本研究の目的は、教育課程にいじめ対応を載せる必要性を示してきた向山洋一の実践が、どのように学校現場で実践されたか、その様相を明らかにすることである。実践者によるインタビューの分析をもとに考察した結果、生徒指導主任によって提案され、通らない場合は代替案が行われたこと、反対されるのはアンケートの表現、一人ぼっちの子調査、24時間以内の対応という箇所であったこと、校長の承認を第一とし、職員の賛同も得なければ実施には至らなかったこと、いじめは起こりうるという前提のある環境では提案が通りやすかったことが明らかになった。現在進められている校内のいじめ対応システムの効果的な運用のためには、キーパーソンである生徒指導主任と校長の連携、システムの運用についてPDCAを行うこと、いじめは起こりうるものという認識のもと指導にあたり、相談・連絡がしやすい職場環境にすることの重要性が示唆された。
審査講評
向山洋一実践・研究賞に選ばれた平山靖氏の論文は、「向山洋一いじめ発見・対応システム」を学校で実践する際の要点がまとめられている。
「いじめ発見」のための観点とシステムに対し、どのように共通理解を図るのか。「いじめ対応」のためのシステムを、学校の教育課程に位置づける際はどのようにすればよいか。実際の学校現場で想定されるコンフリクト(対立や論争)とその対応策についても述べられている。向山氏の実践以外の「いじめ対応」についても広く調べたうえで相対化し、「いじめ発見・対応システム」の価値を抽出できれば、さらに意義深い論文となる。
「いじめ発見」のための観点とシステムに対し、どのように共通理解を図るのか。「いじめ対応」のためのシステムを、学校の教育課程に位置づける際はどのようにすればよいか。実際の学校現場で想定されるコンフリクト(対立や論争)とその対応策についても述べられている。向山氏の実践以外の「いじめ対応」についても広く調べたうえで相対化し、「いじめ発見・対応システム」の価値を抽出できれば、さらに意義深い論文となる。
第2回(2023年度)最終選考論文
一次選考通過論文
武井 恒
特別支援教育に携わる教師の専門性を向上させ、担保するための実践的研究
サポートシートを用いた専門性向上パッケージの提案
守田 のぞみ
小学校の難聴学級における自立活動の授業の試み
セルフアドボカシーの考え方を取り入れて
湯泉 恵美子
視写力向上のための視写教材「うつしまる」を使った授業とその分析
小学校6年間の継続指導を事例に
太田 政男
授業に参加することが難しい子への支援方法の工夫
ほめるサイクルを確立するために行った4つの手立てとその検証
小川 晋
教員による研修動画作成の効果についての一考察
動画作成者からの聞き取りをもとに
関根 朋子
コロナ禍での行事指導
「生きる気力を育てる」音楽会指導
森本 和馬
走り幅跳びにおける助走距離の個別化が記録の向上に与える影響について
小学4年生を対象とした体育科授業の実践から
勇 眞
「向山洋一実践 小学6年『向山学級 歴史授業の経過』」の研究
一年間の追試実践(2020年度 歴史授業 全発問全指示 全81時間) を基に考察する
松田 春喜
主体的な学びにつながるパフォーマンス課題と単元構成の一工夫
教師のネットワークを活用したオンライン学級交流の可能性
水野 正司
切れ目なく「愛着形成のスキル」を学習できるシステムの提供
非同期で授業「赤ちゃん学」を共有する
青山 智士
不登校児童への教師の効果的な関わり方を求める研究
「カウンセリング理論を基にした教師の不登校初期段階対応」の実践分析
塩谷 直大
Webサイトから情報を取り出させる学び方を教える
向山洋一氏の指導法をWebサイト読解に転移させる
第1回(2022年度)全体講評
選考委員長 明石 要一
第1回向山洋一教育賞の応募に全国の学会員から241本の論文が集まりました。驚きです。学会の底力を感じました。
選考委員会では、1次選考を経た22本をもとに最終選考を行いました。向山洋一教育賞には「教育技術賞」「最先端実践賞」「学級経営・児童生徒指導賞」「向山洋一実践・研究賞」があります。最終選考では、ここへ新たに推薦書による「特別賞」が設置されることになりました。
とりわけ優れた論文へ送られる「教育技術賞」には、白杉亮氏の論文が選ばれました。海外の文献等も参考にしながら、丁寧な先行研究が積み重ねられており、新しい「教育技術の分類」案が提案されています。そのすばらしい分析が高く評価されました。
選考委員会では、1次選考を経た22本をもとに最終選考を行いました。向山洋一教育賞には「教育技術賞」「最先端実践賞」「学級経営・児童生徒指導賞」「向山洋一実践・研究賞」があります。最終選考では、ここへ新たに推薦書による「特別賞」が設置されることになりました。
とりわけ優れた論文へ送られる「教育技術賞」には、白杉亮氏の論文が選ばれました。海外の文献等も参考にしながら、丁寧な先行研究が積み重ねられており、新しい「教育技術の分類」案が提案されています。そのすばらしい分析が高く評価されました。
第1回(2022年度)受賞者
Ⅰ.教育技術賞
白杉 亮
自己調整学習理論に基づく授業技術の分類と考察
授業技術の理論的体系化の試み
本研究は、日本の教育現場に大きな影響を与えた向山洋一の提唱する授業技術を分類・考察することにより、今後の授業技術研究の基盤となりうる体系的な知見の提供を試みるものである。これまで様々な論者が授業技術の分類や考察を行ってきたが、未だ標準的な見解は確立されていない。本研究では、子供が自己調整学習(Self-Regulated Learning)の能力を獲得する初期段階で必要となるものが「教師による調整」であり、それが教師の授業技術にあたると考えた。本研究では、向山の文献1663本の中から抽出した290項目を34項目に整理し分類を試みた。結果、向山の授業技術は、ジマーマン(Zimmerman)の自己調整学習の理論に基づいて「予見段階の技術(目標設定、動機づけ)」「遂行段階の技術(モニタリングとコントロール)」「省察段階の技術(判断、原因帰属、反応喚起)」に分類することができ、その効果を説明できることが明らかになった。
審査講評
教育技術賞に選ばれた白杉亮氏の論文は、向山実践を「授業技術」に限定し、三つのステップを提示して解明している。
自己調整学習(SRL)は、今日になって理論化された学習理論である。現行の学習指導要領にもインストールされているが、まだ学校現場には十分に浸透していない。この自己調整学習についての理論を明確に把握したうえで向山実践を分析した本論文の役割は極めて大きく、価値が高いと考える。特に、向山氏の文献から抽出した「授業技術の分類」は、今後大いに活用されるものとなるであろう。
教師が教育技術をしっかり身につけることが、児童生徒に必要となる資質・能力の育成に繋がるという白杉氏の主張は、向山洋一氏の実践を今日的な目線で捉え直すことにもなっている。今後の向山洋一実践研究における方向性のひとつを示した論文である。
自己調整学習(SRL)は、今日になって理論化された学習理論である。現行の学習指導要領にもインストールされているが、まだ学校現場には十分に浸透していない。この自己調整学習についての理論を明確に把握したうえで向山実践を分析した本論文の役割は極めて大きく、価値が高いと考える。特に、向山氏の文献から抽出した「授業技術の分類」は、今後大いに活用されるものとなるであろう。
教師が教育技術をしっかり身につけることが、児童生徒に必要となる資質・能力の育成に繋がるという白杉氏の主張は、向山洋一氏の実践を今日的な目線で捉え直すことにもなっている。今後の向山洋一実践研究における方向性のひとつを示した論文である。
Ⅱ.最先端実践賞
多々野 智子
学校の活性化を図る若年教員育成
教育技術の活用を通して
本論文は、教育技術を活用することで若年教員の資質向上を行い、学校の活性化を図った実践研究である。これまでは、一教諭が様々な教育技術を教室で駆使し、学級での子どもの事実を積み上げてきた。その実践を、若年教員を中心に学校全体に普及、発展させた取組である。全職員に対して教育技術についての知識を伝え、実際に使ってもらうことで子どもたちの「わかる・できる」を増やした。すると、教職員自身のモチベーションが高まり、教職員間の協働意欲や相互コミュニケーションが醸成されていった。教育技術を活用したことは、校長として学校の活性化を図るために様々な手立てを打つ際の一方法として大変有効であった。このことは、学ぶ意欲とやりがいをもち、学び続けようとする教職員集団を形成し、それが児童へのよりよい教育とつながっていく。
審査講評
最先端実践賞に選ばれた多々野智子氏の論文は、具体的で効果のある校内研修の実践記録である。
「若い教員をどのように育成していくか」という学校経営の課題に正対しており、管理職からの報告としてたいへん意義深い。従来は個人の取り組みとされていた教育技術を、学校経営におけるジェネレーションギャップを埋める潤滑油にするという新しい視点が高く評価できる。
校長として、論文にあるような実践をしていくことに大きなパワーを感じる。実践を「どのようにシステム化するか」という道筋があると文句なしであった。「校長が変わると学校はどうなるか」が見えてこない。また、なぜその教育技術を取り上げたのか、どのような実態を埋めようとしたための技術なのかという意図が明示され、整理されることを期待する。
「若い教員をどのように育成していくか」という学校経営の課題に正対しており、管理職からの報告としてたいへん意義深い。従来は個人の取り組みとされていた教育技術を、学校経営におけるジェネレーションギャップを埋める潤滑油にするという新しい視点が高く評価できる。
校長として、論文にあるような実践をしていくことに大きなパワーを感じる。実践を「どのようにシステム化するか」という道筋があると文句なしであった。「校長が変わると学校はどうなるか」が見えてこない。また、なぜその教育技術を取り上げたのか、どのような実態を埋めようとしたための技術なのかという意図が明示され、整理されることを期待する。
Ⅲ.学級経営・児童生徒指導賞
松﨑 力
学力向上を目指し全校体制で取り組んだ4年間の研究
2017年(研究前)と2021年(研究後)の結果比較から8つの手立てを検証する
筆者が勤務した公立小学校(以下「当該公立小学校」とする)は、児童の学力向上を目指して、4年間の継続研究を行った。研究は、チーム学校としての意識改革、学年による到達目標の設定や発達段階を考慮した具体策の徹底、授業の10の原則等を用いた研修会の実施による授業改善、ICT機器を活用した授業の実践、児童全員が教材文を読めるようにする全校体制での取組等、8つの柱を中心に実践してきた。4年間の研究後、当該公立小学校のある市内で実施された統一テストを用いて、研究前年の4・5年生と研究後の4・5年生の達成率を比較した。結果は、研究後の4・5年生は4教科全てで市内平均点を大きく超えることができた。研究前の4・5年生との比較では、2桁以上の向上を見た。これらのことから本研究が示した8つの手立ては、学力向上に寄与するという示唆を得た。
審査講評
学級経営・児童生徒指導賞に選ばれた松﨑力氏の論文は、学校全体でシステム化して学力の向上を成し遂げた実践論文である。4年間の追跡研究で「地道な教育実践がどのように展開されたか」が見えてくる。
教育困難校といわれた学校で学力向上の結果を数値で示すとともに、校内研修が具体的に示されており、価値が高い。特に、各学年に定着させる学習技能や研修内容の共有はすばらしいものである。学校としての継続的な取り組みを、1つの指標とはいえ、市の学力調査を活用して定量的に検証している。
8つの手立てのうち、とりわけどれが効果的かという考察があるとよかった。また、学校全体で取り組んだ8つの手立ては、先行研究からの根拠はあるか、松﨑氏個人の創案かが分からない。「雰囲気を作り上げる」といった項目と、「設定する」「指導する」「図る」「なくす」等のニュアンスが統制されておらず、感覚的な印象があった。
教育困難校といわれた学校で学力向上の結果を数値で示すとともに、校内研修が具体的に示されており、価値が高い。特に、各学年に定着させる学習技能や研修内容の共有はすばらしいものである。学校としての継続的な取り組みを、1つの指標とはいえ、市の学力調査を活用して定量的に検証している。
8つの手立てのうち、とりわけどれが効果的かという考察があるとよかった。また、学校全体で取り組んだ8つの手立ては、先行研究からの根拠はあるか、松﨑氏個人の創案かが分からない。「雰囲気を作り上げる」といった項目と、「設定する」「指導する」「図る」「なくす」等のニュアンスが統制されておらず、感覚的な印象があった。
Ⅳ.向山洋一実践・研究賞
板倉 弘幸
漢字教育における向山実践群の意義に関する検討
「覚える学習」から「考える学習」への転換期に求められる向山実践群の特長
漢字指導に関する教材開発では、向山氏の下で多くを学んできた。なかでもコンピュータのコンテンツ教材とあかねこ漢字スキル教材の開発を進める上で、多数の文献調査等を行い、会議や制作に臨んだ。実際にそれらを授業で活用することで、漢字教育や漢字指導に関する向山実践の有意性を実感することができた。しかし、これまでの一般的な漢字指導は主に、如何にして漢字を習得させるかという「覚える学習」に重点があった。ところが近年の様々な漢字教育に関する知見に触れる機会があり、“漢字は「覚える学習」から「考える学習」への転換を”という内容を知り得た。その捉え方には興味を引かれるものがあり、ならば両者の次の段階として「使える学習」の場面も必要ではないかと考え、改めて向山実践群の特長について調査・分析をすることにした。
審査講評
向山洋一実践・研究賞に選ばれた板倉弘幸氏の論文は、向山型教育実践の漢字指導に焦点をあてた論文である。先行研究も丁寧に調べられ、エビデンスの取り上げ方もよい。「解釈」も的確である。
板倉氏は「覚える学習」から「考える学習」へ、そして「使える学習」へと進む道筋を提案している。「漢字」の学びから、これからの学びのヒントを示しているのである。向山氏に関連する漢字指導の決定版ともいえる内容で、今後の教育研究者に参考となる漢字指導に関するレビューといえる。
向山実践が詳細に示されているだけに、その特長をどのように整理できたかというサマライズされた上位概念を導出してほしかったと感じる。また、「覚える学習」から「考える学習」への転換期に求められる向山実践群の特長はどのように整理されるか、それを端的に示していただきたかった。
板倉氏は「覚える学習」から「考える学習」へ、そして「使える学習」へと進む道筋を提案している。「漢字」の学びから、これからの学びのヒントを示しているのである。向山氏に関連する漢字指導の決定版ともいえる内容で、今後の教育研究者に参考となる漢字指導に関するレビューといえる。
向山実践が詳細に示されているだけに、その特長をどのように整理できたかというサマライズされた上位概念を導出してほしかったと感じる。また、「覚える学習」から「考える学習」への転換期に求められる向山実践群の特長はどのように整理されるか、それを端的に示していただきたかった。
特別賞
井上 好文
向山洋一氏が残した約30万ページの教育資料を分類・整理し、向山実践を研究・継承するためのデジタルアーカイブを構築する
日本教育技術学会前会長の向山洋一氏は、向山式跳び箱指導をはじめ、向山型国語、向山型算数など、さまざまな分野で独創的な実践を発表してきた。また、『斎藤喜博を追って』(昌平社)、『新版 授業の腕を上げる法則』(学芸みらい社)ほか、1,000冊を超える書籍を著している。向山氏は、これらを生み出した研究ノート、実践記録、児童作文、書簡、映像、音声、写真など膨大な量の資料を保管していた。これらの教育資料を分類・整理し、デジタルアーカイブをつくることは、向山実践の研究・継承に不可欠である。
2019年1月より、向山氏の教育資料を分類・整理し、デジタルアーカイブをつくるプロジェクトがスタートした。このプロジェクトの中心となったのが、井上好文氏である。分類・整理された約30万ページの教育資料の一部は、『向山洋一映像全集全7巻』(製作:エンドレスポエトリー、販売:教育技術研究所)、『新・向山洋一実物資料集』(教育技術研究所)として出版され、向山実践の研究・継承に役立っている。(推薦者 佐藤 泰弘)
2019年1月より、向山氏の教育資料を分類・整理し、デジタルアーカイブをつくるプロジェクトがスタートした。このプロジェクトの中心となったのが、井上好文氏である。分類・整理された約30万ページの教育資料の一部は、『向山洋一映像全集全7巻』(製作:エンドレスポエトリー、販売:教育技術研究所)、『新・向山洋一実物資料集』(教育技術研究所)として出版され、向山実践の研究・継承に役立っている。(推薦者 佐藤 泰弘)
審査講評
特別賞に選ばれた井上好文氏のプロジェクトは、向山洋一氏の膨大な実践記録を整理し、デジタルアーカイブを構築するものである。これは、今後の幾世代に渡って向山洋一氏の実践を共有財産化していくために手掛けられた。
気の遠くなるような莫大な資料を丁寧に分類し続ける作業は、特別賞に値するすばらしいものである。向山洋一氏の資料は段ボール箱で約7,000箱にのぼったというから、驚愕の量である。
このデジタルアーカイブ構築は、2019年からスタートし2022年8月時点も続けられている。長きにわたる地道なプロジェクトを高く評価したい。
気の遠くなるような莫大な資料を丁寧に分類し続ける作業は、特別賞に値するすばらしいものである。向山洋一氏の資料は段ボール箱で約7,000箱にのぼったというから、驚愕の量である。
このデジタルアーカイブ構築は、2019年からスタートし2022年8月時点も続けられている。長きにわたる地道なプロジェクトを高く評価したい。
第1回(2022年度)最終選考論文
一次選考通過論文
村田 正樹
小学校の鉄棒授業を変える、鉄棒級表の作成
鉄棒運動の新しい学び方の提案
堀田 和秀
コロナ禍で指導に制限がある中でも、泳げなかった子が全員25m泳げるようになる水泳の授業システム
許 鍾萬 澤近 亮祐
45分の授業における教師の賞賛が小学生に与える影響に関する検討
教師の賞賛の行為は子どもに届いているのか
永井 貴憲
「マイわくわくずかん」による向山型自然体験活動による無限の可能性
5つの活動による「子どもの事実」とその「教育的意義」
勇 和代
1年生1学期に、ひらがなをマスターさせる文字指導
過去4年間の調査を元に考察する
武井 恒
特別支援教育に携わる教師の専門性を向上させ、担保するための実践的研究
サポートシートを用いた専門性向上パッケージの提案
小松 和重
「危機管理教育」により、災害時の行動を考える
「互近助」によって自分の身は自分や近所で守る
千葉 雄二
学校に「ふるさとの森」をつくろう
向山・小森型理科と宮脇方式で学校を設計する
村上 睦
向山型教育課程編成×ICTの実践
「大塚の教育」編成過程を分析し、中学校の教育課程編成に落とし込む
青山 智士
特別支援学級における「交流及び共同学習」の在り方に関する研究
特別支援学級自閉症・情緒障害から通常学級への転籍を見通した支援を求めて
白鳥 友樹
英語の授業における1人1台端末の活用による
Writingの指導法の工夫
Writingの指導法の工夫
山内 英嗣
小学校における学級集団と情報活用能力の育成
Microsoft Education を活用した第6学年の学級経営
平山 靖
いじめ対応システムを教育課程に位置づけた
実践の様相
実践の様相
向山洋一のいじめ対応システムの実践者に対する
インタビュー分析をもとに
インタビュー分析をもとに
太田 政男
授業に参加することが難しい子への支援方法の工夫
ほめるサイクルを確立するために行った6つの手立てとその検証
五十嵐 勝義
知的障害児の日常生活スキルの形成と長期的維持
家庭でのお手伝いを学校で指導し、家庭で継続させるための方略
勇 眞
「向山洋一実践 小学6年『向山学級 歴史授業の経過』」の研究
2020年度追試(歴史授業 全81時間 全発問全指示)
を元に考察する
を元に考察する
小松 裕明
向山実践やまなし追試の一考察
やまなし発問の定石化
お問い合わせ
向山洋一教育賞選考委員会
〒142-0064 東京都品川区旗の台2-4-12
info@mukoyama-award.com
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