向山洋一教育賞も3回目を迎えました。今年も140本もの論文が寄せられました。学会員の熱意とチャレンジ精神に頭が下がります。この応募の多さもうれしいのですが、論文の質も高まっていました。これは、審査委員共通の意見です。論文の質を保つことが学会の信用を高めます。この勢いで進んでいただくことを願います。
今回、各賞とともに特別賞を設けました。論文としてはもう少しだが、シンプルに実践をまとめており、若い人の手本になるという見解です。また、応募論文には、もう少し簡潔にまとめると質が高まるものが見られます。シンプル・イズ・ベストの精神でいきましょう。
受賞者
向山洋一教育賞の
年度別受賞者を紹介しています。
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第3回(2024年度)受賞者
Ⅰ.教育技術賞
関根 朋子
子供の「生きる力」を引き出す音楽指導
コロナ禍、小学校3~6年生の音楽会に向けての取り組み
本研究では、コロナという不測時だからこそ、子供の「生きる力」を引き出したいという強い願いをもって実施した「校内音楽会」の取り組みを通し、TOSS音楽指導法について検証していく。
予測困難な社会の変化を象徴したコロナ禍では、音楽科はマスク着用のまま、歌えない・楽器演奏もできないという今まで受けたことのない制約を強いられた。それでも何とか「生きる力」を感じさせたいと工夫を試みた。例えば、校内音楽会で「唱歌の4小節をソロで歌う」という演目を、コロナ禍、執り行うことにした。結果、本番では「ソロ歌い」に対象児337名中、201名が挑戦した。ここに至るまでのTOSS音楽指導法により、子供の「自己肯定感」が育ち、それが「生きる力」を引き出した可能性がある。
これらの取り組みや考察が、今後新たな困難に遭遇した際の参考になる。
予測困難な社会の変化を象徴したコロナ禍では、音楽科はマスク着用のまま、歌えない・楽器演奏もできないという今まで受けたことのない制約を強いられた。それでも何とか「生きる力」を感じさせたいと工夫を試みた。例えば、校内音楽会で「唱歌の4小節をソロで歌う」という演目を、コロナ禍、執り行うことにした。結果、本番では「ソロ歌い」に対象児337名中、201名が挑戦した。ここに至るまでのTOSS音楽指導法により、子供の「自己肯定感」が育ち、それが「生きる力」を引き出した可能性がある。
これらの取り組みや考察が、今後新たな困難に遭遇した際の参考になる。
審査講評
教育技術賞に選ばれた関根朋子氏の論文は、コロナ禍における音楽指導を通じて、子供たちの「生きる力」を引き出す音楽指導法の有効性を検証したものである。従来の音楽活動が制限される中、「個別評定」や「ICT活用」などを駆使し、子供が主体的に取り組む姿勢を育てた点は評価に値する。特に校内音楽会では337名中201名の児童がソロで歌うことに挑戦し、本指導法の自己肯定感を高める効果を示している。
コロナ禍だからこそ生まれた教育技術として価値があるが、研究が実践報告に偏り、理論的考察が不足している点が見られた。今後は、指導法の効果を他校の事例と比較し、より学術的な検証を加えることで、研究の意義がさらに深まることを期待する。
コロナ禍だからこそ生まれた教育技術として価値があるが、研究が実践報告に偏り、理論的考察が不足している点が見られた。今後は、指導法の効果を他校の事例と比較し、より学術的な検証を加えることで、研究の意義がさらに深まることを期待する。
Ⅱ.最先端実践賞
川原 雅樹
向山型社会AIの開発
向山洋一の社会科実践データをAIに取り込み、後世に活用する
本論文における「向山型社会AI」は、向山洋一の社会科実践データ300程をAIに取り込み、多くの教員が社会科授業の参考にできるシステムを筆者が開発したものである。「向山型社会AI」は、向山実践を基に、発問、指示、単元計画、板書例をAIが自動生成し、教員が効果的かつ計画的な授業を行うための支援を行うものである。さらに、教科書の写真をAIに添付送信しプロンプトを打ち込むことで、1時間分の授業に適した発問や指示を具体的に提示する機能も搭載させている。本AIにより、教員は授業準備の時間を大幅に短縮できると共に、向山洋一の教育実践を基にした向山型社会の授業を、広く普及させることが可能となる。更に、本AIにより、向山洋一の実践を後世に継承し、教育現場での活用を促進することもできると考えている。
審査講評
最先端実践賞に選ばれた川原雅樹氏の論文は、向山洋一氏の社会科における実践をAIに取り込み、教員が社会科授業を効率的に行うための「向山型社会AI」を開発したものである。向山洋一氏の実践をもとにした「発問や指示」、「単元計画」、「板書例」などを自動生成し、授業準備の時間短縮を実現した点で評価できる。また、教科書の写真をAIに読み込ませることで、即座に授業案を提示できる機能を備え、教育現場で活用される可能性を高めた。
ただし、AIが生成する内容の正確性や適用範囲にはまだ課題が残る。今後、他校や他の地域での検証を行い、効果的な授業支援ツールとしてのさらなる発展を期待したい。また、技術的側面だけでなく、教育的意義や倫理面についての議論を深めることも求められる。
ただし、AIが生成する内容の正確性や適用範囲にはまだ課題が残る。今後、他校や他の地域での検証を行い、効果的な授業支援ツールとしてのさらなる発展を期待したい。また、技術的側面だけでなく、教育的意義や倫理面についての議論を深めることも求められる。
Ⅱ.最先端実践賞
水野 正司
向山洋一の〈クイズの原則〉で〈子育て教育〉を創る
ゲーミフィケーションの手法を用いて高校生の学習意欲を高める方法
本研究では、あらゆる高等学校で乳児期における愛着形成の仕方を身に付けさせる授業ができるようにするために、その授業内容と授業方法を明らかにする。高等学校「家庭基礎」の教科書には〈子育ての仕方〉に関する記述は少ない。また、高校生の学習意欲の低下は年々著しい。限られた時間で高校生に〈子育ての仕方〉を教えるにはどうすればよいか。その授業内容を厳選するにあたっては向山洋一の教材研究の視点を採用した。授業方法については興味価値の弱さを補うためにゲーミフィケーションの手法を用いた。具体的には、向山洋一の〈クイズの原則〉である。その結果、約95%の生徒が授業に対し肯定的な評価をし、そのうち約50%が子育てに対して主体的な感想を書いた。
審査講評
最先端実践賞に選ばれた水野正司氏の論文は、向山洋一氏の「クイズの原則」を取り入れ、高等学校での「子育て教育」における授業手法を開発・分析したものである。子育て教育の実態を踏まえ、乳児期における愛着形成の重要性を授業に盛り込んだことや、ゲーミフィケーションを用いた授業設計で学習者の理解と意欲を高めたことは評価できる。向山氏の「クイズの原則」をもとにした授業が高校生の退屈を軽減し、主体的な学びを促進した点は意義深い。
しかし、ゲーミフィケーションの分析に偏り、理論的背景や他の指導法との比較がやや不足している。学術的な裏付けを強化することで、さらなる発展を期待したい。また、子育て教育の重要性を広く訴える意図が伝わる一方で、教科指導の枠を超えた社会的な意義についても議論を深めていくことが望まれる。
しかし、ゲーミフィケーションの分析に偏り、理論的背景や他の指導法との比較がやや不足している。学術的な裏付けを強化することで、さらなる発展を期待したい。また、子育て教育の重要性を広く訴える意図が伝わる一方で、教科指導の枠を超えた社会的な意義についても議論を深めていくことが望まれる。
Ⅲ.学級経営・児童生徒指導賞
勇 和代
「特殊音節の平仮名指導」の研究
1年生で躓きの多い特殊音節の平仮名を、わかりやすく教える指導法
国語科のカリキュラムでは、1年生の1学期に「平仮名」を教え終わることになっている。この平仮名には、「清音」はもとより「特殊音節」の平仮名や助詞も含まれる。清音についてはどの子もほぼマスターできていくが、特殊音節は大変難しい。なぜなら平仮名清音は、文字と音は一対一対応が基本であるが、特殊音節は文字と音の対応関係が複雑になるからである。8月と11月に調査をしたところによると、8月に比べ11月にはどの子も特殊音節の書き取りで成果が見られた。MIMで紹介されているプリントで補充学習し定着を図った成果である。また授業では、音を「視覚化」したり「動作化」したりしたこと、筆者が考えた特殊音節平仮名マスタービンゴ(ルーブリック)を使ったこと等で特殊音節の平仮名の習得率を上げることができた。
審査講評
学級経営・児童生徒指導賞に選ばれた勇和代氏の論文は、1年生の国語教育における特殊音節の平仮名指導法を取り上げ、その効果を実証したものである。特殊音節は、清音とは異なり、文字と音の対応が複雑であり、児童がつまずきやすい内容である。勇氏は児童の学習実態を調査し、動作を取り入れた指導法や「特殊音節マスタービンゴ(ルーブリック)」を活用することで、児童の学習意欲と習得率を高めた。視覚化や動作化の手法を通じて、難解な学習内容をわかりやすく指導した点がたいへん実践的である。
ただし、効果の検証が実践報告の域を超えておらず、学術的な考察が不足しているところがある。今後は、指導法の有効性を他学年等で検証し、より学術的な裏付けを行うことが望まれる。
ただし、効果の検証が実践報告の域を超えておらず、学術的な考察が不足しているところがある。今後は、指導法の有効性を他学年等で検証し、より学術的な裏付けを行うことが望まれる。
Ⅳ.向山洋一実践・研究賞
板倉 弘幸
向山実践の討論授業の実際とこれから目指すもの
知的探究型の授業を探る
日本の教育界はPISAなど国際調査や全国学力調査などの結果から、とくに思考力・表現力育成が求められている。
思考力、表現力を付けるには、討論の授業を通して「表現し伝え合う活動」が必要である。
そこで、向山氏の著作や向山実践に関連する多くの事例を調べると、向山型討論の授業は、国語と社会、理科、道徳などに多くの実践例が見られるが、算数では著名な向山実践が少ないことが分かった。そこで、向山型算数の授業にも意図的に討論場面を取り入れ、表現し伝え合う活動を充実させることを目指した。
その際に、数学的な考え方の一つである「一般化」を追究するような討論授業を仕組むことで、知的探究型の学習の捉え直しが生じ、より思考活動の活性化がなされるのではと考えた。
思考力、表現力を付けるには、討論の授業を通して「表現し伝え合う活動」が必要である。
そこで、向山氏の著作や向山実践に関連する多くの事例を調べると、向山型討論の授業は、国語と社会、理科、道徳などに多くの実践例が見られるが、算数では著名な向山実践が少ないことが分かった。そこで、向山型算数の授業にも意図的に討論場面を取り入れ、表現し伝え合う活動を充実させることを目指した。
その際に、数学的な考え方の一つである「一般化」を追究するような討論授業を仕組むことで、知的探究型の学習の捉え直しが生じ、より思考活動の活性化がなされるのではと考えた。
審査講評
向山洋一実践・研究賞に選ばれた板倉弘幸氏の論文は、向山洋一氏の「討論授業」を算数科に応用し、知的探究型授業を実現するための手法を論じたものである。従来、討論授業は国語科や社会科での実践が多く、算数科においては事例が限られており、本研究は新たな価値を提案している。特に、討論を通じて「一般化」を追究し、算数の問題解決における思考力育成に着目した点は評価できる。
しかし、討論による効果の学術的検証や、他の教科との比較が不足しており、効果測定をもとに算数科における討論授業の有効性を裏付けることが求められる。討論の意義や算数科での実施上の課題についても、さらなる議論を深めていくことで、研究が一層高まることを期待したい。
しかし、討論による効果の学術的検証や、他の教科との比較が不足しており、効果測定をもとに算数科における討論授業の有効性を裏付けることが求められる。討論の意義や算数科での実施上の課題についても、さらなる議論を深めていくことで、研究が一層高まることを期待したい。
特別賞
手塚 美和
小学校低学年で学習する加法・減法が苦手な児童の計算力を向上させた実態調査とその指導法
小学校低学年で学習する加法・減法が苦手な児童を早期に発見し、対応するために、加法・減法の実態調査を行った。小学校低学年における加法・減法は、小学校中学年以降の様々な学習に影響をしていく。2年生全員に調査を行った。繰り上がりのない加法、繰り上がりのある加法、繰り下がりのない減法、繰り下がりのある減法のつまずきがわかった。調査は、10月と11月に3回行った。加法・減法の苦手な児童には、「1桁+1桁の繰り上がりを間違える」「加法と減法の記号を読み間違える」「引かれる数と引く数の混乱により間違える」「具体物の操作が出来ずに間違える」等の特徴があった。12月以降は、1回15分程度の取り出し指導を行った。「子ども用百玉そろばん」「アルゴリズムを唱えさせる」「補助計算を書かせる」指導に加え、「注意のために記号を記入させる」指導を取り入れた。それぞれの児童の計算力に、明らかな質的な改善が見られた。
審査講評
特別賞に選ばれた手塚美和氏の論文は、小学校低学年で加法・減法が苦手な児童の実態を調査し、取り出し指導を通じて計算力を向上させた研究である。調査を通して、繰り上がりや繰り下がりのある計算に対する児童のつまずきの特徴を明らかにし、アルゴリズムを唱える指導法や、子ども用百玉そろばんを用いた指導、補助計算の記入などを実施した結果、全児童に質的な改善が見られた点は評価できる。
今回、研究ノートの事例としての価値が高く、特別賞となった。指導の効果としては短期的な部分があり、学年を超えた持続性等について検証が必要である。理論的な裏付けを強化し、研究が一層高まることを期待したい。
今回、研究ノートの事例としての価値が高く、特別賞となった。指導の効果としては短期的な部分があり、学年を超えた持続性等について検証が必要である。理論的な裏付けを強化し、研究が一層高まることを期待したい。
特別賞
加藤 心
外国語環境下における英語の高速処理を実現する英語授業
やり取りで2秒以内に返答し始める授業と英会話テスト
本研究は、外国語環境下における日本での英語指導において、母語である日本語の翻訳を介さない高速の英語処理を公立の中学校で日本人教師が指導できるのか、さらにその後の英会話テストにおいて中学生は日本語を介さずに高速で英語処理ができるのか、この2つを検証する目的で行われた。高速の英語処理とは単に1往復のやり取りではなく、何往復もやり取りを継続することであり、それを行うための授業と英会話テストの2つを本研究の中心に据えた。日本語の翻訳をする暇が無いほどの高速の目安として、会話やり取りの中で2秒以上間を空けずに返答し始めるかどうかを調査した結果、授業においても英会話テストにおいても、その両方において全ての中学2年生たちが全てのやり取りの中で2秒以上間を空けずに返答し始めた。さらに、ほとんどの生徒が1秒以内に返答し始めながら、何往復もやり取りを継続することができた。
審査講評
特別賞に選ばれた加藤心氏の論文は、日本の中学校において、英語の翻訳を介さずに速く英語を処理する指導法を検証したものである。生徒が2秒以内に返答を開始する授業を実施すると、英会話テストにおいても全員が2秒以内、ほとんどの生徒が1秒以内に返答を開始するといい、音韻ループの理論に基づく実践として評価できる。また、翻訳を行うことなく、イメージ処理を定着させる方法の有効性を示した点も意義深い。
生徒数が19名と限られていたため、さらなる検証が今後の課題といえる。引き続き実践を重ね、効果の再現性を示し、指導法を確立していくことが望まれる。論文として、より客観的な文体が適切であるとして、今回は特別賞となった。
生徒数が19名と限られていたため、さらなる検証が今後の課題といえる。引き続き実践を重ね、効果の再現性を示し、指導法を確立していくことが望まれる。論文として、より客観的な文体が適切であるとして、今回は特別賞となった。
第3回(2024年度)最終選考論文
一次選考通過論文
武井 恒
特別支援教育に携わる教師の専門性を向上させ、担保するための実践的研究
サポートシートを用いた専門性向上パッケージの提案
原 良平 | 髙野 裕也 |
守屋 遼太郎 | 山森 勇治 |
金子 史 | 福嶋 莉佳 |
優れた学級集団形成の指標化と指標に基づく実践
質の高い学級づくりの共有化のために
松尾 智子
小学校国語科書写における運筆指導について
水書用筆を活用した授業改善を中心として
東田 昌樹
全校での「向山型暗唱指導」「五色百人一首指導」の実践により、子どもが知的成長をする学校づくり
小原 嘉夫
社会科固有の探究力育成のための小学校社会科授業構成理論とその評価
1人1台端末を活用した第5学年「未来をつくり出す工業生産」を事例に
冨士谷 晃正
中学生の問題行動発生件数を減少させる「学校組織としての取り組み」に関する一考察
2年間の教員による学校評価の分析を通して
松田 春喜
主体的な学びにつながるパフォーマンス課題と単元構成の一工夫
教師のネットワークを活用したオンライン学級交流の可能性
勇 眞
「向山洋一実践 小学6年『向山学級 歴史授業の経過』」の研究
一年間の追試実践(2020年度歴史授業 全発問全指示 全81時間)の実際とその評価
加藤 三紘
小学校体育における走り幅跳び指導法の工夫
運動が苦手な児童を「できない」から「できる」へ導くための授業プログラムの開発と実践
小松 裕明
泳げない子は、誰でも泳がせることができる
低学年の泳げない子を泳げるようにする指導法の確立を目指す
白鳥 友樹
即興のやり取りをできるようにするための指導法の工夫
TOSS 型英会話指導による実践の事例から
お問い合わせ
向山洋一教育賞選考委員会
〒142-0064 東京都品川区旗の台2-4-12
info@mukoyama-award.com
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