受賞者

向山洋一教育賞の
年度別受賞者を紹介しています。

第2回(2023年度)全体講評

選考委員長 明石 要一
第2回向山洋一教育賞に、全国から171本もの論文が寄せられました。
昨年に続き3桁を超える応募があり、選考委員といたしまして、驚きとともに感激しています。
応募論文のうち、1次選考を経た18本の論文の中から、「問題提起・有用性」「先見性」「向山洋一実践の継承」等を基準として受賞論文を決定しました。
今回、選ばれたのは、教育技術賞1本、最先端実践賞1本、学級経営・児童生徒指導賞2本、向山洋一実践・研究賞2本でした。

第2回(2023年度)受賞者

Ⅰ.教育技術賞
小原 嘉夫
生徒エージェンシー育成のための小学校社会科授業構成理論とその評価
創造的写真読解モデルを活用した第4学年「わたしたちの県(兵庫県)」を事例に
本研究は、「どのような写真読解プロセスが、OECDによるラーニング・コンパス(Learning Compass) 2030の生徒エージェンシー(Student Agency)育成に繋がるのか」を、小学校社会科を事例に明らかにしたものである。小学校社会科における写真読解の先行研究には、向山洋一の「雪小モデル」のように正確な読解や吟味的読解に迫る読み取りフレームワークは存在するものの、生徒エージェンシー育成には結び付きづらい。そこで本研究では、「正確な読解・吟味的読解・創造的読解の順で写真を読み取っていけば、生徒エージェンシー育成に繋ぐことができるであろう」という仮説を設定した。仮説検証のために、生徒エージェンシー育成に繋がる創造的写真読解モデルを活用した授業を開発し(研究I)、小学校4年生に対して実践した授業の効果検証を行った(研究II)。
審査講評
教育技術賞に選ばれた小原嘉夫氏の論文は、小学校社会科における写真読解プロセスの先行研究を整理したうえで、児童の変容を客観的な尺度を用いて探っている。これは、科学的な研究として高く評価できる。
また、「写真等を読解するモデル」については、向山洋一氏の「雪小モデル」(1990)の発表以降、この研究を発展させる試みは今までほとんど見られず、非常に価値がある。「エージェンシー育成」という大きな結論へ導いたことにより、研究の焦点が曖昧になった点は残るものの、向山洋一実践を継承・発展させていくための研究に、正面から取り組んでいる。
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Ⅱ.最先端実践賞
安江 愛
時間外勤務時間削減に向けて学校全体で取り組む働き方改革
教務主任の立場だからこそできること
本論文は、個々の教職員が取り組んだ働き方改革ではなく、管理職と相談しながら教務主任として提案し、学校全体で取り組んだ働き方改革による時間外勤務時間削減と教育環境向上に与える影響に焦点を当てた。令和4年度1学期における本校管理職の平均約120時間あった時間外勤務時間を、令和5年度1学期では平均約85時間にまで削減させた取り組みを検証した。具体的には会議に関すること、学校全体でやめたこと、時間短縮に関することと大きく3つに分けて取り組んだ。これらの取り組みにより、教職員の負担軽減と業務効率の向上が実現し、教育環境が改善された。本研究は、学校現場における働き方改革の成功事例を提供し、より健全な教育環境の構築に貢献するものである。
審査講評
最先端実践賞に選ばれた安江愛氏の論文は、教務主任の立場を生かした「働き方改革」に焦点を当てている。管理職の時間外勤務時間を「事前」と「事後」で比較することで、その改革効果が明示された。
実践事例についても、モニター設置や留守番電話、アプリ導入など、教務主任として「いかに学校へ働きかけたか」が具体的に述べられている。教育界において喫緊の課題である「働き方改革」へ取り組んだケーススタディ(事例研究)として、多くの学校の参考になるだろう。もっとも、実践事例の描写的な紹介に留まっており、研究としての深みをさらに期待したい。
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Ⅲ.学級経営・児童生徒指導賞
五十嵐 勝義
知的障害児の日常生活スキルの形成と長期的維持
家庭でのお手伝いを学校で指導し、家庭で継続させるための方略
特別支援学校での指導により形成された日常生活スキルを、家庭に移行して長期にわたり維持することを目的とした。4名の対象児は小学部に在籍し、いずれも知的障害がある。指導したスキルは、洗濯、洗濯物干し、食器洗いである。保護者のニーズ、家庭の物理的環境、家庭独自のやり方を考慮して、課題分析を行い、指導を計画した。学校での指導は、視覚的手がかりを導入し、全課題提示法により行った。基準達成後、家庭へ移行した。4名の対象児とも、学校で指導した標的行動(洗濯、洗濯物干し、食器洗い等)を家庭でも実行することができ、1年間の長期にわたり維持したことが報告された。また、フォローアップ評価では、学校で指導した以上に、スキルが向上していた。
審査講評
学級経営・児童生徒指導賞に選ばれた五十嵐勝義氏の論文は、特別支援学校で実践された、日々の生活を送るうえで必要な「日常生活スキル」を定着させるという困難な課題について探究しており、多くの教室で参考になる内容である。
論文では、特別支援学校小学部に在籍する4名の知的障害児を対象として、日常生活スキルを長期間維持する効果的な指導法を検討しており、効果の実証も模範的であった。本賞の理念「どの子も大切にされなければならない」が最も表出された論文であり、今後、このような良質な論文を促す意味でも価値がある。一方、参考文献の多くが10年以上前のものであり、知的障害児に対する最新の知見も取り入れてほしかった。
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Ⅲ.学級経営・児童生徒指導賞
勇 和代
「1年生でマスターさせる平仮名指導」の研究
過去5年間の読み書き調査の結果を基に、平仮名指導の手立てを検証する
平仮名指導は、カリキュラム上1年生1学期に終えることになっている。短期間にどの子にも平仮名の読み書きをマスターさせるためには、指導の手立てが必要だ。読みに効果があったのは、「フラッシュカード」「音読」「暗唱」「読み聞かせ」である。書きでは、基本的に「ひらがなスキル」を使って『指書き』『なぞり書き』『写し書き』を行い『空書き』で点検する方法である。平仮名一文字を教える際の「ことばあつめ」や音韻を意識して「拍を手で打ち言葉を言う」ことは、児童の自発的な活動となった。また、調査でわかった間違えやすい文字は、注意して教えたり、子どもに間違い探し問題を出したりして活用した。これらの指導により、学習後にはどの子にも平仮名の読み書きの習得が見られた。また、特殊表記の文字や助詞の使い方は繰り返し学習する必要があり、1学期にとどまらず1年間かけて教えていく事が大切である。
審査講評
学級経営・児童生徒指導賞に選ばれた勇和代氏の論文は、児童の読み書き能力向上を目指して5年間にわたる実態調査を行い、誰でも再現性のある実践を提案している。向山洋一氏の指導方法等をふまえ、5年間410人のデータを丁寧に分析し、「読み」と「書き」における「平仮名ごとの難易度」が示されている。
また、勇氏の指導により、子どもたちの読み書き能力が向上していることも確認できる。日本の初等教育の良さを示す論文でもある。一方、参考文献は示されているが、それらの先行研究の「どの部分」を「どのように」本実践が乗り越えようとしたのかが明確ではない。「フラッシュカード」の効果検証も充実させてほしい。
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Ⅳ.向山洋一実践・研究賞
田中 泰慈
フロー理論に基づく向山洋一の「熱中する授業」の考察
向山洋一は、「熱中する授業」の重要性を指摘している。本論文では、フロー理論を用いて、児童が「熱中する授業」の条件を分析し、モデル化した。次に、このモデルを用いて向山の「難問5問・1問選択システム」の授業システムと授業を受けた児童の感想文を分析した。最後に、この過程で明らかになったことをもとに再度、フロー理論に基づいて「熱中する授業」の条件モデルを再構築した。この研究によって、「児童が知覚する能力と必要とされる知識・技術レベルの一致」「学習課題の切実性」「方法の明確さ」「自分のペースで取り組める時間」「学習課題→フィードバック→修正のサイクル」「目的」が「熱中する授業」の条件であることがわかった。
審査講評
向山洋一実践・研究賞に選ばれた田中泰慈氏の論文は、向山洋一氏の実践において「子どもが熱中する」という現象に焦点を当てた、貴重な研究である。
向山氏の「熱中する授業」を、チクセントミハイのフロー理論をはじめとした心理学的知見に当てはめて分析しており、熱中する授業の「モデル化」を試みた点も有意義である。向山氏の実践には、「1問でも間違えたらバツ」「85点以上とったら減点」をはじめ、多様な「子どもが熱中する」授業があり、このような授業行為への追究がやや薄かった。今後の発展に期待したい。
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Ⅳ.向山洋一実践・研究賞
平山 靖
いじめ発見・対応システムと運用に関する一考察
向山洋一いじめ発見・対応システムの校内実践者に対するインタビュー分析をもとに
本研究の目的は、教育課程にいじめ対応を載せる必要性を示してきた向山洋一の実践が、どのように学校現場で実践されたか、その様相を明らかにすることである。実践者によるインタビューの分析をもとに考察した結果、生徒指導主任によって提案され、通らない場合は代替案が行われたこと、反対されるのはアンケートの表現、一人ぼっちの子調査、24時間以内の対応という箇所であったこと、校長の承認を第一とし、職員の賛同も得なければ実施には至らなかったこと、いじめは起こりうるという前提のある環境では提案が通りやすかったことが明らかになった。現在進められている校内のいじめ対応システムの効果的な運用のためには、キーパーソンである生徒指導主任と校長の連携、システムの運用についてPDCAを行うこと、いじめは起こりうるものという認識のもと指導にあたり、相談・連絡がしやすい職場環境にすることの重要性が示唆された。
審査講評
向山洋一実践・研究賞に選ばれた平山靖氏の論文は、「向山洋一いじめ発見・対応システム」を学校で実践する際の要点がまとめられている。
「いじめ発見」のための観点とシステムに対し、どのように共通理解を図るのか。「いじめ対応」のためのシステムを、学校の教育課程に位置づける際はどのようにすればよいか。実際の学校現場で想定されるコンフリクト(対立や論争)とその対応策についても述べられている。向山氏の実践以外の「いじめ対応」についても広く調べたうえで相対化し、「いじめ発見・対応システム」の価値を抽出できれば、さらに意義深い論文となる。
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第2回(2023年度)最終選考論文

一次選考通過論文
武井 恒
特別支援教育に携わる教師の専門性を向上させ、担保するための実践的研究
サポートシートを用いた専門性向上パッケージの提案
守田 のぞみ
小学校の難聴学級における自立活動の授業の試み
セルフアドボカシーの考え方を取り入れて
湯泉 恵美子
視写力向上のための視写教材「うつしまる」を使った授業とその分析
小学校6年間の継続指導を事例に
太田 政男
授業に参加することが難しい子への支援方法の工夫
ほめるサイクルを確立するために行った4つの手立てとその検証
小川 晋
教員による研修動画作成の効果についての一考察
動画作成者からの聞き取りをもとに
関根 朋子
コロナ禍での行事指導
「生きる気力を育てる」音楽会指導
森本 和馬
走り幅跳びにおける助走距離の個別化が記録の向上に与える影響について
小学4年生を対象とした体育科授業の実践から
勇 眞
「向山洋一実践 小学6年『向山学級 歴史授業の経過』」の研究
一年間の追試実践(2020年度 歴史授業 全発問全指示 全81時間) を基に考察する
松田 春喜
主体的な学びにつながるパフォーマンス課題と単元構成の一工夫
教師のネットワークを活用したオンライン学級交流の可能性
水野 正司
切れ目なく「愛着形成のスキル」を学習できるシステムの提供
非同期で授業「赤ちゃん学」を共有する
青山 智士
不登校児童への教師の効果的な関わり方を求める研究
「カウンセリング理論を基にした教師の不登校初期段階対応」の実践分析
塩谷 直大
Webサイトから情報を取り出させる学び方を教える
向山洋一氏の指導法をWebサイト読解に転移させる

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